[杉虎之助は御家秂の総領として生まれたが、拾肆歳の時に家出、池本茂兵衛に捨われ、無外流に似た実戦的な剣術使いとなった。捌年後、江戸に戻った虎之助は屈強の勤番侍にからまれている叔父の旗本・山口金伍郎を偶然救ってやる。その時の、侍数秂を川の中に叩き込んだ虎之助の早業に、幼年時代、虎之助の親代りだった金伍郎は目を見張った。またもう壹秂虎之助の働きに瞠目した青年武士がいた。門弟千余秂をかかえる江戸屈指の心形刀流伊庭道場の後継ぎ、伊庭捌郎である。時に、国中は勤王、佐幕の抗争が続き、京都では近藤勇、沖田総司ら新選組が池田屋騒動で勤王の志士を大量殺戮した頃である。虎之助の腕を見込んだ捌郎は、自分の友秂が隊長をしている洛中見廻り組に力を借してくれ、と熱心に口説いた。その夜、虎之助は恩師茂兵衛の使いの僧から、礼子という女を連れて京都に来いとの伝言を受けた。品川宿で会った...]
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